2014年 ハイライト

記念すべき第1回目開催の年となった2014年、HARIBAN AWARDでは世界中から131作品のご応募をいただきました。この画期的な賞は、主催者が、選ばれた写真作家一名に、 京都にある便利堂のコロタイプ工房で2週間、熟練の職人と共に作品制作をする機会を提供する、というものです。審査員は、世界的に有名な国国立美術館テートモダンキュレーターのサイモン・ベーカー、GALLERY 21 キュレーターで東京画コミッショナーである太田菜穂子(おおたなおこ)、そして岩波書店元美術書編集部美術書編集長の多田亞生(ただつぐお)、さらにProject Basho/ONWARDのプログラムディレクターのイトウツヨシとなっています。

受賞者

最優秀賞

アヴォイスカ・ヴァン・デル・モレン [https://www.awoiska.nl]
アヴォイスカ・ヴァン・デル・モレンはモノクロの風景写真で知られている。彼女の写真作品は、彼女が撮影するような日常から隔てられた世界に深く分け入りたいという欲求から生み出される。2011 年フランスのHyères Photography Festival でファイナリスト、同年スイスの Festival de la Photography de la MontagneでAlt.+1000受賞。2014年に刊行された彼女の最初の写真集『Sequester』は、Best Book from All Over the Worldコンペティションで銀メダルを受賞した。作品はKristof De Clerq Gallery(ベルギー、ゲント)、Purdy Hicks Gallery(ロンドン)で取り扱われている。現在はアムステルダムとイタリアのウンブリアを拠点に活動中。
Awoiska van der Molen

Awoiska van der Molen

審査員特別賞

Antony Cairns(アントニー・ケーンズ):1980年ロンドン生まれ。15才から故郷の街ロンドンの風景を撮影し続けている。彼の作品は、薬品を用いた写真という媒体の不安定さ、境界線を探求することに深く根付いている。

Antony Cairns

Antony Cairns

Marco van Duyvendijk(マルコ・ヴァン・ダイヴァンデイク):1974年オランダ生まれ。東ヨーロッパおよびアジアを旅して作品を制作。作品は、国内外で多数出版、展示されてきた。2014年には京都の舞踏家Rikoを撮影した写真集を出版。現在はインドネシアにて新プロジェクトを作成中。

Marco van Duyvendijk

Marco van Duyvendijk

花木テンミ:1991年より、独学でドローイングや貼り絵を制作し始める。2003年には写真を用いた作品を主に制作し、2005年からは、主に東京で、定期的に作品を発表している。

Tenmi Hanagi

Tenmi Hanagi

佳作

  • Zen The
  • Dongwook Lee
  • 松原豊
  • 井上博義
  • Dana Fritz
  • Maria do Mar Rego
  • Brett Henrikson

工房賞

  • Mamiyo Okuda

Brett Henrikson

Brett Henrikson

審査員からの講評

Simon Baker(サイモン・ベイカー):英国国立美術館テートモダン、写真/国美術部門チーフキュレーター

アヴォイスカ・ヴァン・デル・モレンは、HARIBAN AWARDのグランプリ受賞者として選ばれるべくして選ばれた。彼女は便利堂の熟練した技術者たちと作業を行うという刺激的な機会を享受するにふさわしい写真家である。彼女の現代的なモノクロ写真は、現在のヨーロッパにおける最も上質な作品のひとつであり、それは自身の卓越したプリント技術によって制作されている。と同時にこうともいえるのも事実である。すなわち、自然を写した繊細で美しい彼女の作品は、光と影の綾に細心の注意を払うことにより生み出されるが、それは便利堂がコロタイプにより手がけてきた写真の歴史的名作と共通点が多いということである。

多田亞生(ただつぐお):岩波書店 元美術書編集部美術書編集長

今回のHARIBAN AWARDに応募された方々の総数は131名、一次審査をパスしたものは、そのうち51名であった。内訳は日本から27名、欧米から17名、アジアから7名である。
二次審査ではここから10名の方が選出された。それぞれ甲乙つけがたいほどの僅差で選出されたことを特記する。それは現在の写真界の置かれた現状を示すものともいえ、写真表現が多様にしてかつ多義的で、ときには評価しがたいものであったことを意味する。二次審査になった作品群をみると、ストレートな写真表現を志向したものは全体の35%、絵画的ともいえる写真表現が14%、のこり過半数の51%は、コラージュ、フォトグラム、ソラリゼーションなど、さまざま技法により、なかには湿板コロジオンという古い技法をあえて採用するなど、独自の工夫でそれぞれの心象風景を写真表現している。このたび、最優秀賞受賞したアヴォイスカ・ヴァン・デル・モレンさんは、人里はなれた島嶼を独り訪れた。そこは都市と群衆の喧噪からまったく隔絶している。天地創造の始原ともいえるような風景のなかに身をおいて、自分自身と向かいあった体験を写真表現した。
写真術が発明されて180年、さまざまな感光材料、器材、技法などが工夫されて現在のデジタル時代にいたった。コロタイプ技法はその歴史のなかでも、もっともながく存続するものである。精緻な再現性、経年による劣化のないもの、そして何よりもそれを支えてきた職人技の伝承に裏打ちされた貴重な写真表現である。今回のHARIBAN AWARDは、現代における多様な写真表現がこのコロタイプ技法によって、まったく新しい作品価値を生み出す契機になることと思う。

太田菜穂子(おおたなおこ):株式会社KLEE INC代表取締役 CEO、東京画 Tokyo コミッショナー、Gallery 916 アソシエイツ・キュレーター

多様な作品と出会える国際コンペの審査は、写真にかかわる者のひとりとして大きな喜びです。しかも今回は受賞作品 が世界最高の印刷技術のひとつ、コロタイプで印刷されるという「その次」を見ることが出来るというのですから、興味も喜びもひとしおでした。
まず、多くの応募作品に共通していたのは、作家としての見ることへの真摯な姿勢でした。この「見届ける覚悟」という意味で、最優秀賞のアヴォイスカ・ヴァン・デル・モレンさんの作品は「今は見えない世界の先にある存在」への強い目力が感じられるランドスケープとして印象に残りました。また、アジアからの応募作品にみられた山水画を彷彿とさせる作風には、その後の印刷行程を意識した思考が伝わってきたことは興味深く受けとめました。
印刷は再生産されることが成功であり、「普及」という「美の共有」に繋がります。究極のマニュスクリプトとして、ご神体となる書や経文の印刷に用いられるコロタイプは、密度と精度を秘めた作品に出会うことで、その内側に隠されていたメッセージ、精神の有り様を呼び起こす力を持っています。
複数の人が、時代を越えて何度も繰り返して見ることを前提とするコロタイプ印刷のクオリティーが写真の可能性を広げてくれるとしたら、今こそ、双方にとって普遍性を持つ「新しい価値」を意識し、共有するべきではないかと考えます。最後に。写真が未来に向かって、さらに刺激的な発展をしていくには、常に挑戦し続ける事で現在まで継承されてきた伝統が持つ進取の精神を忘れてはならないことを付け加えたいと思います。

2014 最優秀賞者とのインタビュー


2014年の審査員は、オランダ生まれの写真家アヴォイスカ・ヴァン・デル・モレンさんを最優秀賞に選出しました。彼女は2014年2週間を京都で過ごし、作品の制作に当たりました。便利堂の熟練技術師たちとのコラボレーションで生まれた作品は、2015年の4月に、Kyotographie(京都国際写真祭)のアソシエイトプログラムとして展示されました。このインタビューで彼女は、便利堂でのコロタイプ体験と京都での経験を語っています。